2021年6月8日火曜日

きめつ考

 もうそろそろ,話題に上がることがなくなってきたし,逆に,アニメの 2 期が始まって話題が再燃する前の時期だし,いいタイミングかなと思って「鬼滅の刃」を読みました.読む前から,想定していたのは,「たぶん,これだけ人気になるんだから,普通に面白いんだろうけれど,(読書体験として)面白いだけなんだろうな」という感想になるであろうことで,そもそも,「少年漫画的なもの」が肌に合わない自分には向かないマンガであることは自覚がありました.

で,読んでみた.(※アニメはみていない)

読語の感想としては,事前に想定していた通りで,「面白いマンガではあった(=読むのに要したコスト分,面白かった)」という以上のものはなかったのですが,マンガ自体の面白さと別なところで,「物語」の無さに驚きました(※批判ではないです).

まず,「鬼滅の刃」自体が,23 巻もあるわけだけれど,その全体でプロットが 5 つくらいしかないうえに,それが一本の線のうえに並んでいるだけなことが,最も衝撃的でした.元々,少年漫画的なものに馴染まないうえに,年齢的にも,最早,最近のマンガの潮流においていかれている自覚はあるのですが,ここまで「物語」がアッサリしたストーリーマンガというものを経験したことがなかったので驚きました.たとえるなら,(今となっては)初期の,面白かった頃の「One Piece」を何倍も薄めたようなアッサリさ(※どちらのマンガについても批判ではないです).

※例えば,「○○の呼吸 ○の型」とか,読む前は,「修行をしてどうこう」とか「キャラに見合った形質が現れる(ex. ハンタの念)」みたいなものかと思っていたけれど,自分がなにか読み飛ばしたのかと思うくらい唐突に,なんの事前情報もなく,いきなり技を出してきて驚きました.

※もう一例.読む前は,恋柱のおっぱいの子とか花のポニテの子とか,すごい主要キャラなのかと思っていたら,ただのちょい役のサブキャラ程度しか露出がなく,アッサリとしか書かれていないのも驚きました.猪と雷との絡みも,ほとんど描かれていないのに,いつの間にか盟友みたいになっている,とかもそういう例.

このマンガの持つ,こういったアッサリとした「質感」は,個人的には,斬新で,面白い(interesting のほう)と思いました.

もうひとつは,そこまで斬新な手法というわけではないですが,キャラクターの造形について,大して深掘りはしないけれど,わかりやすい程度に類型化した「物語」を付与するやり方は,このマンガの大きい特徴かなと感じました.また,先述した物語のアッサリとした「質感」と「キャラ造形」に共通するものとして,「少年マンガのお約束」の多用によって故意に物語を省略する手法も目立ちました.「お約束」の共有によって,書かない部分は書かない(例:一回,共闘のシーンを書いたから,もうこいつらは盟友!みたいな).

何が言いたいかというと,二次創作や妄想のための部品の展示市のような作品だなということです.

そういう目で見ると,東浩紀が「動物化」のころに「エヴァ」を評して,「物語を薄くすることで読者の妄想の材料(情報)を大量に集めた作品で,これらの材料をもとに読者が妄想を膨らませたから成功した(かなり意訳)」と書いていたような知見に近いかもしれないです.作品を読んで,読み手側が妄想し,作品に反復することで,書かれているテキストと絵以上の楽しみ方ができるという点は共通していそうです.ただ,「鬼滅」については,明らかにエヴァのような衒学的な情報過多状態ではなく,非常にアッサリとした「質感」の物語に,妄想するための余地や空間をたっぷりとっている作りを感じます.そういう点で,「鬼滅」は,「日常系」と言われる一群に近い,その進化形なのかもしれません(注).

注:「エヴァ」が物語の喪失という表象とすると,その更なる発展が「日常系」に見いだせて,薄いとはいえあった「物語」という土台すら取り去られている世界観が現れる.そういった「物語の喪失」の極地を越えて,もう一度,「物語」を薄く再導入したようなイメージ.(「日常系」考は,昔どっかで書いた気がするので,ここでは書かない)

10年くらい前から,マンガやアニメの作り手が,マンガやアニメだけを見て育ってしまった論というのが流行りだけれど,「鬼滅」の作者が,そういう出自だとすると,このマンガの持つ「質感」が,そういった世代の作り出した,ひとつの結論なのかもしれません.

あとは蛇足な余談ですが,多分だけれど,アニメは,こういう「余地の部分」を埋めるような描写がある「二次創作」的なものになっているのではないかと思いますが,それは,このマンガの「質感」を下げる作業だと思います(見ていないので,ただの想像).そういう意味では,アニメのほうは,ほぼ無価値かなと思います.世間の評価的には逆なんだろうけれど.